1. はじめに
胸郭に沿って走る肋間神経が刺激されると、「深呼吸するだけで刺すような痛みが走る」「体をひねるとびりっと電気が走るよう」──こうした鋭い痛みを感じるのが肋間神経痛です。病院では「神経痛」と診断されることも多いですが、実際のところ原因や症状の捉え方、治療法には鍼灸治療ならではの強みがあります。本記事では、肋間神経痛の基礎知識から診断ポイント、一般治療との比較、そして当院が最も得意とする鍼灸治療の実際まで、鍼灸院ならではの視点で解説します。
2. 肋間神経痛とは
- 定義:胸髄(Th1~Th11)から枝分かれした肋間神経が、肋骨下縁を走行中に何らかの理由で刺激・圧迫され、疼痛を生じる状態。
- 好発部位:胸郭の側面~背部。左右どちらか片側が多く、まれに両側。
- 症状の特徴:
- 深呼吸・咳・くしゃみで痛みが増強
- 体をひねる・腕を上げるなどの動作で刺激
- 焼けるような痛み、締めつけ感、鋭い刺痛
日常生活では、呼吸が浅くなることで肺炎リスクが増すこともあるため、早期の対策が重要です。
3. 解剖学的基礎知識
- 肋間神経の走行
- 胸椎から出た前枝が肋骨下縁の溝(肋間溝)を通過
- 外肋間筋・内肋間筋の間を走行しつつ、皮膚・胸膜へ分枝
- 神経線維の機能
- Aδ線維・C線維:痛み・温度感覚の伝達
- Aβ線維:触覚・振動感覚の伝達(ゲートコントロールに関与)
- 胸郭運動との関係
- 呼吸時に肋間筋が伸縮し神経を引き伸ばすため、痛みが出やすい
4. 主な原因
肋間神経痛の原因は多岐にわたりますが、当院で多く見られるものは以下の通りです。
原因分類 | 具体例 |
---|---|
続発性(多い) | ● 帯状疱疹後神経痛● 肋骨骨折後の神経圧迫● 胸部手術後の術後神経痛● 長時間の同一姿勢(デスクワーク、ドライビング) |
特発性(稀) | ● 原因不明で慢性化(多くは中高年に発症) |
特に、帯状疱疹後や手術後はウイルス性・外傷性の炎症が神経をダメージし、慢性的に痛みが残るケースが見られます。
5. 痛みのメカニズム
- 物理的刺激・炎症
骨折片やウイルス炎症が神経鞘を刺激し、サイトカインが放出 - ナトリウムチャネル異常
損傷部位で異常に発現したチャネルが自発的に放電し、痛み信号を増強 - 中枢センシティゼーション
長期間の侵害受容入力で脊髄後角ニューロンが過敏化し、弱い刺激でも大痛み - 筋緊張による悪循環
肋間筋の過緊張→さらに神経を圧迫→痛み増強→呼吸浅化→筋緊張増加
6. 一般的な治療選択肢
6-1. 薬物療法
- NSAIDs(ロキソニンなど)で炎症・痛み抑制
- 抗てんかん薬(プレガバリン)や抗うつ薬(アミトリプチリン)で神経痛緩和
6-2. 神経ブロック
- 肋間神経ブロック:局所麻酔薬を神経周囲に注射し、一時的に痛み信号を遮断
- 硬膜外ブロック:広範囲の鎮痛効果
6-3. 理学療法
- 呼吸リハビリ:深呼吸法で胸郭の可動域を改善
- ストレッチ:肋間筋の柔軟性向上
6-4. 補完療法としての鍼灸メリット
- 薬物副作用リスク低減
- ブロック注射が苦手な方でも実施可能
- 自然治癒力を高める根本治療
7. 診断のポイント
- 問診
- 痛みの誘因動作(呼吸・咳・くしゃみ・姿勢変化)
- 発症時期・経過(帯状疱疹既往、外傷歴の有無)
- 触診・圧痛部位確認
- 肋骨下縁を指で押して痛み誘発を確認
- 皮膚過敏(タッピングテスト)
- 画像検査(必要時)
- 胸部X線:骨折や腫瘍の有無チェック
- CT・MRI:軟部組織や神経走行の詳細評価
8. 鍼灸治療の実際
和からだみなおし処では、肋間神経痛に対して以下の手順・工夫で鍼灸治療を行い、高い改善率を実現しています。
8-1. 施術の流れ
- 初診カウンセリング:痛みの性状・生活習慣を詳しく聴取
- 体表観察・脈診・切経:緊張点・圧痛点を特定
- 取穴の選定
- 背部の肋間沿い経穴(肺兪、心兪など)
- 末梢の痛み改善穴(合谷、足三里など)
- 刺鍼:
- 深さは5~15mm程度、角度は肋骨に沿わせて浅刺
- 皮下層で軽い響き(得気)を得る
- 通電刺激(電気鍼):痛みの強い部位には1~2Hzで軽く刺激
- 温灸併用:肋間部に艾柱を置き、温熱で血流促進
8-2. 治療頻度と経過
- 急性期:週2回程度×2~4週間
- 慢性期/予防期:週1回×4~8週間、その後2週に1回のメンテナンス
8-3. 鍼灸特有の効果
- 多重鎮痛作用(オピオイド放出、ゲートコントロール、抗炎症)
- 筋膜リリース効果:緊張した肋間筋・周辺筋の柔軟化
- 全身調整:局所施術だけでなく、体全体の気血バランスを整え再発を防止
9. 再発予防とセルフケア
- 日常ストレッチ
- 肋間筋ストレッチ:壁に腕をかけ、胸を開く
- 首・肩まわりの緊張を取る
- 呼吸法の習慣化
- 腹式呼吸:横隔膜をしっかり動かし、胸郭の柔軟性維持
- 姿勢の工夫
- デスクワーク時にお腹を引っ込めて(ドローイン)骨盤を立てる
- 定期的に立ち上がり、体をひねる、伸ばす
- 定期メンテナンス
- 鍼灸を2週に1回ペースで継続し、未然に痛みを防止
10. まとめ
肋間神経痛は「神経の物理的・炎症的刺激」と「中枢過敏化」の二重奏で起こる痛みですが、鍼灸治療は多重の鎮痛メカニズムを同時に作用させられる点が最大の強みです。
一般治療との併用により、薬や注射に頼らず根本改善を目指せます。
痛みの初期から積極的に鍼灸を取り入れ、呼吸・動作時の不安から解放されましょう。
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