RICE処置とは?
「急性期だけじゃない」和からだみなおし処が考える"ステージ1"のケア
スポーツ中の捻挫、転倒による打撲、日常の何気ないケガ。「そのうち良くなるだろう」と放置して悪化した経験はありませんか?
和からだみなおし処では、痛みやケガの状態を4つのステージに分けて考えています。どのステージにも、その時期に必要なケアがあり、どれ一つとして軽視することはできません。
本記事では、その中でも強い炎症が起きている状態(ステージ1)で実施することの多い「RICE処置(安静・冷却・圧迫・挙上)」について、当院の臨床経験と最新知見を踏まえてお伝えします。
この記事のポイント
- "ケガ直後だけが対象"ではない
- 「身体に余裕がない状態」で最も力を発揮する
- その後の回復を左右する大切なケアの一つ
RICEを正しく理解し、必要なときに実践できるようになることで、回復までの時間が変わります。
ステージ1とは?
RICE処置とは
RICEは、以下4つの頭文字を取った痛みと炎症を抑える基本原則です。
| 頭文字 | 意味 | 目的 |
|---|---|---|
| R | Rest(安静) | 炎症拡大を防ぐ |
| I | Ice(冷却) | 痛み・腫れを抑える |
| C | Compression(圧迫) | 内出血・腫脹を防ぐ |
| E | Elevation(挙上) | 血液/リンパの滞留を抑制 |
それぞれを詳しく解説
Rest(安静)
痛みのある動きは避け、患部を守ります。早い段階での無理な運動は逆効果です。
Ice(冷却)
冷却は「氷(氷水)」が最も安全かつ効果的です。
時間の目安:15〜20分
※"感覚がなくなるまで"が一つの基準
氷と保冷剤の違い
- 氷なら直接皮膚に当ててOK
→ 凍傷リスクが低く、温度が安定 - アイスノンなどの保冷剤は当て布が必要
→ 温度が低すぎて皮膚トラブルのリスクあり
⚠️ 重要
冷却は時間を守ることが最重要です。
比較表
| 方法 | 氷(氷水) | 保冷剤(アイスノン等) |
|---|---|---|
| 皮膚への直接使用 | ◎ OK | × 当て布必須 |
| 皮膚トラブルのリスク | 低 | 温度差によっては高い |
| 冷却効果 | 最も安定して高い(常に0℃) | 温度が一定でなく、冷却効果が下がる |
| 実臨床での推奨度 | ★★★★★ | ★★☆☆☆ |
なぜ氷が最適なのか?
- 氷(氷水)は溶ける過程で"常に0℃を維持"する
→ 深部の熱を効率よく奪う(=冷却効果最大) - 0℃より高くても低くても冷却効果は下がる
(ここが最重要ポイント)
効果的な冷却のサイクル
痛み・腫れが強いステージ1では、次のサイクルで行うと炎症コントロールがしやすくなります。
冷却 15〜20分 → 圧迫 40〜45分
(これが1サイクル)
1日数回、状態に応じてサイクルを回しましょう。
Compression(圧迫)
弾性包帯で適度な圧をかけます。
- ゆるすぎ → 効果なし
- 締めすぎ → 血流障害
- バランスが重要
Elevation(挙上)
患部を心臓より高くすることで、腫れや内出血を抑える狙いがあります。
「急性期」ではなく「ステージ1」で実施する
一般的にはRICE処置は急性期(怪我直後)に行うもの(時期で考える)のですが、和からだみなおし処では時期ではなく状態で考えています。
理由
実際の臨床の場では時間が経っていても急性期のような状態の方は沢山いて、それによって誤った対応をすることで症状が悪化しているケースが見られます。
RICEからPEACE & LOVEへ
RICEが提唱されたのは1980年代。当時は「とにかく炎症を抑えること」が中心でした。
しかし研究が進む中で、次のような課題が見えてきました。
- 冷やしすぎると回復が遅れることがある
- 早すぎる安静は関節機能を落とすことがある
- 心理的な不安が回復を妨げる場合がある
"回復にはもっと観る視点が必要だ"という認識から登場したのがPEACE & LOVE(ピース アンド ラブ)です。
参考資料: Soft tissue injuries simply need PEACE & LOVE (British Journal of Sports Medicine)
元論文による提案内容
軟部組織損傷の治療アプローチは、長年にわたってICE → RICE → PRICE → POLICEと進化してきましたが、これらのアプローチには以下の問題点が指摘されています。
従来のアプローチの課題
- 急性期管理にのみ焦点を当て、亜急性期・慢性期の組織治癒段階を無視している
- エビデンス(科学的根拠)が限定的である
- 抗炎症薬は痛みと機能には効果があるが、最適な組織修復には有害な影響を及ぼす可能性がある
PEACE & LOVEの特徴
- 即時ケア(PEACE)から継続的管理(LOVE)まで、リハビリテーションの連続性を包括している
- 患者教育と心理社会的要因への対処を重視している
- 抗炎症薬を軟部組織損傷の標準管理に含めるべきでない可能性を示唆している
PEACE
- P:Protect(保護)
- E:Elevate(挙上)
- A:Avoid Anti-inflammatory(抗炎症薬の使いすぎを避ける)
- C:Compression(圧迫)
- E:Education(教育)
LOVE
- L:Load(適切な負荷)
- O:Optimism(前向きな心理)
- V:Vascularization(血流を良くする)
- E:Exercise(運動療法)
アイシングについて
PEACE & LOVEの提案を受けて、近年「アイシングは治癒を遅らせる」との主張が取り上げられることがあります。しかし、現段階で当院が把握している限りでは以下のことが言えます。
- 研究方法の詳細が確認できていない
→ 判断材料として十分とは言い難い - 実際の臨床現場とは条件が異なる可能性が高い
(これは私の推測) - 信頼性の高いデータを直接確認できていない
(PEACE & LOVEの元論文を読んでも、断言的な根拠は読み取れませんでした)
つまり現時点で
- 「アイシングで治癒が遅れる」と断定する根拠は不十分
- それよりも「適切な氷による冷却で改善した症例が多い」という臨床結果が存在する
と考えています。
和からだみなおし処の考え
ステージ1ではRICEの冷却が有効(強い炎症を早期にコントロールできる)
臨床で見ている「実際に良くなる身体の反応」を最も重視し、今後も新しい科学的知見がアップデートされれば柔軟に取り入れていく姿勢です。
患者さんへのメッセージ
「新しい説が出たから古いのが間違い」ということではありません。大切なのは、目の前の身体にとって最適かどうかです。
消炎鎮痛剤について
PEACEは、RICEと比べて「消炎鎮痛剤の使用」を推奨しないという点で大きく異なります。
PEACEにおける「Avoid Anti-inflammatory」の部分では、次のような考え方が背景にあります。
- 炎症は回復に必要な反応
- 強く抑えすぎると修復を妨げる可能性がある
和からだみなおし処の考え
鍼灸師は薬を処方できません。そのため、薬に関する判断は医師に委ねられます。
しかし、患者さんは日常で薬と向き合う場面が多いものです。そこで当院は、次のようなケースでは、正解はありません。双方のリスクを考え、どう選択するかが重要と考えています。
- 痛みが強すぎて心身のストレスが大きい
- 眠れない、仕事にならない
- 痛みによって炎症が悪化する可能性がある
そして何より…
ゼロリスクの医療は存在しない
だからこそ、理解した上で、自分で選択することが大切です。
そのために、治療家として"判断材料"を丁寧にお伝えする。それが私たちの役目です。
まとめ
ステージ1はRICEが最優先
(ケガ直後に限らず、炎症が強い時期はすべて)
ステージ2・3はLOVEへ移行
(これは従来から言われてきたこと)
PEACE & LOVEが登場したことで「昔ながらのやり方が否定された」ように感じる方もいますが、実は逆で、当院が大切にしてきた考え方が科学的に整理されただけと捉えています。
特に、PEACE & LOVEの考え方の中でも以下の2点については当院も同意見です。
- P:Protect(保護) - "動かさない"のではなく"必要以上に負担をかけない管理"
- E:Education(教育) - セルフケアの質が回復の鍵
つらいうちはRICEをしっかり。動けるようになったらLOVEへ。それが結局、一番早い回復になります。
今のあなたの症状、どのステージ?
「冷やし続けていいの?」「安静はいつまで?」
迷う瞬間こそ、悪化しやすい時期です。今の症状がステージ1なのか、ステージ2へ進めるのか、一緒に確認しましょう。
動画・音声でも学べます
RICE処置について、より詳しく知りたい方は動画・音声コンテンツもご活用ください。